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MetCom、JAXA、「地上波方式測位システム」に関する共創活動を開始 〜地下・屋内・屋外問わず、測位をシームレスに〜

2024年2月29日
国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構
MetCom株式会社

 MetCom株式会社(代表取締役:平澤 弘樹、以下「MetCom」)※1、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(理事長:山川 宏、以下「JAXA」)は、新たな発想の宇宙関連事業の創出を目指す「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(以下、J-SPARC)」※2の枠組みのもと、「地上波方式測位システム」に関する共創活動を開始しました。

 本共創では、MetComが提供計画中の、都市部で地下・屋内・屋外問わずシームレスな位置情報の提供を可能にするMBS(Metropolitan Beacon System)三次元測位サービスに、センチメータ級測位補強信号を活用した高精度単独測位「MADOCA-PPP※3」による時刻同期情報を組み込むことで、地上波測位の精度に寄与する基地局間の時刻同期精度の2桁向上を目指します。また、MetComが建設する地上基地局の衛星信号受信アンテナに対して、JAXAが研究開発を進めるアレイアンテナ技術※4を組み込むことで、耐干渉性を高め、安全性を向上させます。本共創により、屋内外、地下から地上・高層階まで三次元的にシームレスかつ、高精度で安全な位置情報の提供を目指します。

共創活動の背景

 米国のGPSや我が国の準天頂衛星システム「みちびき」(QZSS)に代表される衛星測位システムの発展により、位置情報は日々の生活に欠かせないものになっています。しかし、「位置情報は屋外で使うもの」という大前提が存在しています。この大前提を打ち破る方法は様々提案されていますが、屋内外をシームレスに繋ぐコスト・精度のバランスを満たしたサービスはまだ現れていないのが現実です。

 「位置情報は屋外で使うもの」という大前提を打ち破り、地下・屋内・屋外問わずシームレスな位置情報の提供を目指すのが、MetComが提供計画中のMBS三次元測位サービスです。測位信号を独自の地上基地局から送信することで衛星通信より格段に高い受信強度を確保可能な電波に乗せられるため、地下や屋内にも測位信号を届けることが可能になります。また、同じくMetComが提供計画中の時刻配信サービスは、衛星通信より格段に高い受信強度を実現可能な電波に時刻情報を乗せることにより、電波妨害等に対して耐性を高くできます。時刻配信サービスのユースケースとして、通信システム、金融系ネットワーク、データセンターや電力グリッド網の同期等、ミッションクリティカルな業務に対する安定・高信頼性な時刻同期の実現が期待できます。

共創活動の内容

 MetComは、MBS三次元測位システムの時刻同期にMADOCA-PPPに基づく時刻情報の組み込みを行います。時刻同期情報にGPSのみを利用した場合に比べ、MADOCA-PPPに基づく時刻情報を利用することで基地局間測位精度が2桁(距離換算で数m級から、数cm級の誤差へ)向上することが期待できます。また、JAXAが開発中のアレイアンテナ技術に対して、MetComが建設する地上基地局の衛星信号受信アンテナとしての有効性を検討し、アレイアンテナ技術の開発にフィードバックします。

 JAXAは、MADOCA-PPPを用いた時刻同期技術の研究開発及びアレイアンテナ技術の研究開発を行います。具体的には、1PPS校正機の開発・試験を実施し、MADOCA-PPPサービスを用いた新たな利用分野として高精度時刻同期機能を、JAXAが研究開発を進める高精度単独測位ソフトウェア(MALIB)に付与します。加えて、地上基地局の衛星信号受信アンテナをアレイアンテナ化することによる耐干渉性の向上に関する研究開発を行います。衛星から送信される測位信号は長距離を伝播するため受信時には強度が弱くなります。そのため、ジャミング(妨害)やスプーフィング(なりすまし)による脅威を受けやすくなります。そこでアレイアンテナ化することで指向性を高め、特に“みちびき”からの測位信号を優先的に受信する機能を持たせることで、ジャミングやスプーフィングに対する耐性を向上し、安全性、信頼性の改善を目指します。

 本共創により、最初の1〜2年で、MetComとJAXAのそれぞれで研究開発を行い、MBS三次元測位システムへ組み込むためのフィードバックループを回します。その成果として、それぞれの技術を組み込んだ高精度で安全な地上波方式測位システムの実現を目指します。

目指す未来

 お子様や高齢者の見守りサービスでビル内や地下で所在地が分からない、建物火災で救助活動中に不測の事態が発生し無線通信が途切れた消防士がどこで動けなくなっているか分からない、ドローン・エアモビリティの飛行中に機体位置が分からない、本共創により、高精度で安全な地下・屋内・屋外を問わないシームレスな位置情報の提供が実現できれば、これらの課題に対する対応策になり得ます。加えて、日々の生活に欠かせない位置情報を得る手段として、衛星測位システムのバックアップ手段を獲得できます。本共創により、いつでもどこでも確実な測位が当たり前になる社会を目指します。

国と社会を守るために

 近時では、妨害、なりすましなど、衛星PNTシステム(位置・航法・時刻システム)の利用を難しくしたり不能にするような事態が世界的に多発しています。このように、交通、電力網、通信インフラなど社会基盤の安定運用に必須であるPNTシステムに対する脅威が世界各地で顕在化する中、衛星測位を補完するPNTシステムの必要性の認識が世界的に高まっており、米国、欧州連合(EU)及び英国においては、政府による補完PNT構想が進行中です。

 このような中、今般のJAXAとMetComの取組みは、日本が運用する準天頂衛星システム「みちびき」と地上波システムのMBSを組み合わせることにより、日本において制御・運用可能な補完PNTシステムの構築を志向するものでもあり、その点においても大きな意義を有するものです。

※1 MetCom株式会社

 MetCom株式会社は、「何が、いつ、どこで」 を可視化する、広域かつ高精度な三次元位置情報を提供する会社です。GPSの主要課題である「屋内・地下」、「垂直測位」、「セキュリティ問題」を解決し、屋外・屋内の双方でシームレスに利用可能な三次元測位サービスを提供します。本領域の世界的リーダーである米国NextNav社が主要株主になっており、同社とのパートナーシップのもとで、世界最高水準の測位サービスを実現します。我が国における安心・安全な社会と、利便性の高い市民生活を実現する社会インフラの整備・運営を目指しております。
https://metcom.jp/

※2 JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)

 J-SPARC(JAXA Space Innovation through Partnership and Co-creation)は、宇宙ビジネスを目指す民間事業者等とJAXAとの対話から始まり、事業化に向けた双方のコミットメントを得て、共同で事業コンセプト検討や出口志向の技術開発・実証等を行い、新しい技術を獲得し、新しい事業を創出する共創型研究開発プログラムです。2018年5月から始動し、これまでに約40のプロジェクト・活動を進め、民間事業者による食、生活用品、教育、VR、エンタメ、アバター、通信、小型衛星コンステ事業の事業始動(商品化・サービスイン)にも貢献しています。事業コンセプト共創では、マーケットリサーチ、事業のコンセプトの検討などの活動を、事業共同実証では、事業化手前の共同フィージビリティスタディ、共同技術開発・実証などの活動を行います。
https://aerospacebiz.jaxa.jp/solution/j-sparc/

※3 MADOCA-PPP(Multi-GNSS Advanced Demonstration tool for Orbit and Clock Analysis-Precise Point Positioning)

 MADOCAは、JAXAが開発した複数GNSS対応高精度軌道時刻推定を実現するソフトウェア。
MADOCA-PPPは、MADOCAにより生成された補強情報により、cm級測位を実現するための、高精度測位補強サービス。内閣府が準天頂衛星システムから配信するサービスは2024年から正式サービスを開始予定。JAXAは、MADOCAの機能性能改善と共に、MADOCA-PPPを用いた様々な高精度測位利用技術を支えるために必要な技術開発を実施しています。

※4 アレイアンテナ技術

 アレイアンテナを使用した耐干渉性を向上する技術で、JAXA航空技術部門航空安全イノベーションハブ、三菱プレシジョン株式会社、中部大学、大阪公立大学、国立長野工業高等専門学校が、共同研究「CRPA技術を応用したGPS干渉信号抑制の実用化に向けた研究」のもとで研究開発に取り組んでいます。

MetCom株式会社 代表取締役 平澤 弘樹 コメント

 MetComの社会的使命は、「位置情報を、いつでもどこでも誰でも使える本物の社会インフラにする」です。衛星測位システムと互換性を確保しつつ、その構造的課題を解決する地上波方式測位システムによって屋内外シームレスな三次元測位サービスを提供し、この社会的使命を果たそうとしています。
今回、JAXAとの共創を通じ、準天頂衛星システム「みちびき」の指向性を活かした耐干渉性と、MetComの地上波方式ならではの高い信号受信強度という双方の特徴を組み合わせ、更にMADOCA-PPPが提供する2桁高い精度の時刻情報を活用することにより、我が国において安定的に運用可能で信頼性の高い測位システム及び時刻供給サービスを構築し、社会の安全・安心の確保、利便性の向上に貢献したいと考えております。

JAXA 第一宇宙技術部門衛星測位技術統括 小暮 聡 コメント

 JAXA衛星測位システム技術ユニットでは、準天頂衛星のみならず、GPS、Galileo、GLONASS、BDSの精密軌道時刻推定を行うソフトウェア(MADOCA)の高度化並びにそのMADOCAを用いて生成される高精度測位用補正情報利用の高度化の研究開発、社会実装に取り組んでいます。これらはPOC-DC株式会社及び株式会社コアと連携して取り組みます。
 これまで、センチメータ―級測位など、主にユーザ測位精度の面で、高精度測位利用は注目されてきましたが、今回MetComさんとは、位置と同時に得られる高精度時刻の応用利用として、MetComが進める地上波測位、時刻同期サービスの高度化と事業化に共同で取り組ませていただくことになりました。個人的にも屋内外シームレス測位の研究開発にはIMESで取り組んできたこともあり、本共創事業によってシームレス測位実現に大きな貢献ができれば嬉しく思います。また、衛星測位システムの脆弱性を補完し、空飛ぶ自動車やドローン配送などの信頼性向上にもつながる事業だと考えており、その高度化に貢献できるよう取り組んで行きたいと思います。

JAXA 航空技術部門航空安全イノベーションハブ ハブマネージャ 藤原 健 コメント

 JAXA航空安全イノベーションハブでは、アレイアンテナを使用することでGPSをはじめとする測位衛星からの信号の受信の耐干渉性を向上する技術の研究開発に取り組み、衛星測位の信頼性の向上を目指しています。
 アレイアンテナはその原理上、大きなアンテナ開口面積が必要なため、モバイル端末や小型ドローンなどの小さな移動体への搭載は事実上不可能でした。それに対しMetComが提供を計画する地上波方式測位システムとの共創が叶えば、アレイアンテナは少数の地上基地局に設置するだけでよく、小さな移動体であるユーザーにも信頼性の高い測位を提供できるようになることが期待されます。
 電子機器の発展にともない電波という目に見えないものに対する脆弱性が高まりつつありますが、アレイアンテナ技術の研究開発をとおして安全・安心な社会の実現に貢献していきたいと思います。


本件に関するお問い合わせ先
MetCom株式会社 広報担当  MAIL: info@metcom.jp URL: https://metcom.jp/
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構  広報部 050-3362-4374